近年、ヤシ殻活性炭の主要原料である「Coconut Shell Charcoal(ヤシ炭)」の国際価格が急激に上昇しています。
International Coconut Communityが公表している市場データによると、主要生産国であるインドネシア、スリランカ、インドでは、2024年後半から2025年にかけて歴史的な価格高騰が発生しました。
■ヤシ炭の取引価格(2024年→2025年)
インドネシア :US$460/MT → US$1,000/MT超(約2.2倍)
スリランカ :US$540/MT → US$815/MT(約1.5倍)
インド :US$330/MT → US$990/MT(約3倍)

■活性炭価格にも大きな影響
原料であるヤシ炭の価格上昇は、ヤシ殻活性炭の製品価格にも大きく影響しています。
International Coconut Community(ICC)の市場レビューでは、ヤシ炭価格の上昇に加え、ヤシ殻系活性炭の輸入・輸出価格にも上昇傾向が見られると報告されています。
また、ヤシ殻系活性炭の主要原産国における輸出価格についても、2024年から2025年にかけて、おおむね約1.5倍から約2倍程度まで上昇したとの報告があります。
ここ数年は、国内外の活性炭メーカーでも複数回の価格改定が発表されており、ヤシ殻活性炭の価格は継続的な上昇トレンドとなっています。
今後も、原料不足や世界的な需要拡大、物流費・エネルギーコストの上昇、為替の影響などにより、高値基調が継続する可能性があります。
■中東情勢と原油価格上昇によるコスト圧力
ヤシ殻活性炭の価格上昇には、原料であるヤシ炭の価格高騰だけでなく、国際的なエネルギー価格の変動も大きく関係しています。
特に近年は、中東地域を中心とした地政学的リスクの高まりにより、原油価格が大きく変動しやすい状況が続いています。原油価格の上昇は、燃料費、海上輸送費、陸上輸送費、製造時のエネルギーコストなどに波及するため、輸入品であるヤシ殻活性炭の価格にも影響を与えます。
世界銀行の特別レポートでは、地政学的リスクを伴う原油供給ショックは、通常の供給ショックよりも原油価格への影響が大きいと分析されています。同レポートでは、地政学的な要因により原油生産が1%減少した場合、原油価格は平均で最大11.5%上昇するとされています。
また、原油価格の上昇は原油そのものにとどまらず、天然ガス、肥料、食品、金属、農業原料など、幅広いコモディティ価格にも波及する可能性があります。これは、エネルギーが輸送・加工・製造・農業生産など、多くの産業活動に共通して使用される基礎的なコストであるためです。
下図は、世界銀行のコモディティ価格データをもとに、2022年1月から2026年4月までのBrent原油、WTI原油、Dubai原油、および3種平均価格の月次推移を当社で整理したものです。2026年に入り、原油価格が再び上昇していることが確認できます。

【図:原油価格の月次推移(2022年1月~2026年4月)】
出典:World Bank Commodity Markets, Pink Sheet monthly data をもとに当社作成
■インフレによる人件費・資材価格の上昇
ヤシ殻活性炭の価格上昇は、原料であるヤシ殻炭そのものの価格上昇だけで説明できるものではありません。世界的なインフレにより、製造・加工・輸送に関わるさまざまなコストが上昇していることも重要な要因です。
たとえば、製造工場、港湾作業、倉庫、陸上輸送、検査・梱包作業などでは、人件費の上昇がサプライチェーン全体のコストを押し上げています。米国労働統計局(BLS)の雇用コスト指数では、民間労働者の総雇用コストは、2026年3月までの1年間でも3.4%上昇しています。賃金・福利厚生費を含む雇用コストは、コロナ禍以降も高い水準で上昇が続いており、製造・物流・検査・梱包など労働集約的な工程のコスト上昇要因となっています。
また、資材面でも、エネルギー価格や各種コモディティ価格の上昇は、活性炭の製造・賦活・乾燥・包装・輸送に影響します。特に、原油価格や天然ガス価格の上昇は、燃料費、電力費、包装資材、物流燃料費などを通じて、幅広いコスト上昇につながります。
■海上輸送費・コンテナ運賃の上昇
さらに、海上輸送費の変動も無視できません。ヤシ殻活性炭は、主にアジア地域からの輸入品であるため、コンテナ運賃、燃料サーチャージ、港湾費用、船腹需給、航路混雑、地政学リスクなどの影響を受けます。
実際に、Drewry World Container Index(WCI)は、2026年5月7日時点でUS$2,286/40ftコンテナ、5月21日時点でUS$2,712/40ftコンテナ、5月28日時点でUS$2,800/40ftコンテナとなっており、5月に入って上昇傾向が確認されています。
また、アジア域内の海上運賃を示すDrewry Intra-Asia Container Index(IACI)も、2026年5月15日時点でUS$939/40ftコンテナ、5月22日時点でUS$959/40ftコンテナとなっています。Drewryは、IACIが中東・イラン情勢悪化前の水準より約75%高い水準にあると説明しており、船舶燃料費の上昇、航路変更、実質的な船腹のひっ迫、ホルムズ海峡周辺の混乱などが運賃上昇圧力になっているとしています。
特に中東情勢の悪化やホルムズ海峡周辺のリスクは、原油価格だけでなく、船舶燃料費、運航コスト、航路変更、保険料、コンテナ需給にも波及する可能性があります。そのため、ヤシ殻活性炭の価格は、原料価格だけでなく、エネルギー価格、人件費、資材価格、海上輸送費、為替などが複合的に反映されたものと考える必要があります。
■価格上昇の主な要因
ヤシ殻活性炭の価格上昇には、以下のような複数の要因が重なっています。
・世界的な脱臭・浄水需要の拡大
・VOC対策や環境規制強化による需要増加
・水処理用途での活性炭需要の増加
・原料であるココナッツ殻の不足
・気候変動、温暖化、害虫被害などによる原料供給不安
・ヤシ炭の国際価格高騰
・原油価格、天然ガス価格などエネルギーコストの上昇
・人件費、包装資材、物流費の上昇
・海上コンテナ運賃の変動
・為替変動による輸入コスト増加
特に、環境対策用途としての需要拡大により、高性能なココナッツ系活性炭への需要は世界的に増加しています。一方で、原料供給や物流環境は不安定化しており、価格が下がりにくい構造になりつつあります。
■安定調達のために重要なこと
今後も、国際情勢やエネルギー価格、海上輸送費、為替の変動によって、ヤシ殻活性炭の価格が大きく変動する可能性があります。
そのため、ヤシ殻活性炭については、短期的な価格だけでなく、中長期的な供給安定性や代替材の活用も含めて検討することが重要です。
特に、一定量を継続的に使用されるお客様の場合は、以下のような対応が有効です。
・早めの発注、在庫確保
・複数グレード、複数原料の比較検討
・用途に応じた性能の見直し
・過剰スペック品から適正スペック品への切り替え
・国内バイオマス由来吸着材など代替材の検討
■当社の取り組み・提案
ユー・イー・エスでは、用途・設備・コスト・環境性を総合的に考慮し、最適な活性炭ソリューションをご提案いたします。
・循環型素材であるSDGs炭のご提案
・用途に応じた最適なヤシ殻活性炭の選定
・安定供給を考慮した製品提案
・原料価格や物流費の変動を踏まえた代替材のご提案
ヤシ殻活性炭の価格上昇への対応、活性炭の見直し、SDGs炭のご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。
参考資料
・International Coconut Community(ICC) Market Review
・World Bank Commodity Markets, Pink Sheet
・World Bank Commodity Markets Outlook, Special Focus: The Effects of Geopolitical Oil Supply Shocks
・OECD Unit Labour Costs
・Drewry World Container Index
・Drewry Intra-Asia Container Index
・Freightos Baltic Index
・Shanghai Shipping Exchange, Shanghai Containerized Freight Index(SCFI)